千里山西の家

周囲の環境とコートハウス

吹田市千里山は風致地区に指定されているももの、四半世紀は経年したと思われる長屋建住宅がそこここに点在しており、必ずしも万全の環境とは言えないところがありました。
この敷地の南西隣地もその例にもれず、一列にベランダが並び洗濯物が一望され、庭を配して、距離と植栽でプライバシーを守れるような状況ではなく、特に眺望が期待できる景色も周りにはありません。そこで、敷地の四周を建物で取り囲み、中庭を中心とした生活が出来るように各部屋を配置しました。
当初、建築主の希望は敷地の四周を可能な限り高い塀で囲むことでたが、その地域の環境に対する配慮もしていかなければなりません。前面道路から向かって左手は、隣地の気配を抑えるため、障壁を3200㎜、と高めに設定し、右手は隣家の垣根に合わせ2400mmとし、雁行状にずらしながら 道路から少し控えるように配置しました。人々を「招き入れる」かたちと、スリットを設けることで、内外の気配を相互に通わせ、街並みに対して閉鎖と開放のバランスをはかっています。

美しく古びる素材

朝早くから午前中一杯、普通の主婦の大掃除に相当する作業をこなすのが日課である建築主にとって、掃除の対象となる仕上げ、そしてその範囲は、最大の関心事でした。
本人よりは、むしろまわりの人たちからの気遣いが大きかったのですが、打ち合わせを繰り返すなかで、対象となる素材が「手をかける必要を感じさせない」か、あるいは、「手をかけずとも美しさを保っていると感じ取れる」ものであれば、日々の掃除の範疇から外れる、ということが分かってきました。
「美しく古びる素材」、すなわち「陰影によって表情を持ち、古びることで、感覚的な質感の増す素材」を選択することが鍵だったのです。
外壁は 色幅の大きいレンガタイルの手バツリしたものと 割り肌のレンガタイルの ストライプで行くことに決まりました。内部の壁については二転三転して最後まで決まらなかったのですが 鏝ムラのあるザックリした塗り見本を見て 「これなら掃除の必要はないし、表情も良いですね」 と言われた時には、周りの心優しい人たちには意外な結果だったようですが、それは、こちらが想像していた通りのものでした。